学部長からの祝辞 ~2019年度卒業生へ向けて~
卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。心からお慶び申し上げます。
入学時はまだ高校生の面影を残していた皆さんも、この4年間で社会人になる前の精悍な顔つきになられたことかと思います。多くの人にとって学業の最後となる大学の卒業式は、今年度は新型コロナウイルスによる影響で開催できませんでしたが、このようなことは今までになかったのではないかと思います。その点では、逆に大変印象に残るものとなりました。
この在学中の最期の出来事で、皆さんは何を学んだでしょうか。生物と無生物の中間とも言える小さなウイルスで、人は翻弄され、世界的に経済や文化活動は大きなダメージを受けました。昔なら風土病の1つとも言えるコロナウイルスによる感染症が、グローバル化の影響で短期間に世界中に広がってしまいました。医療機関で必要なマスクを転売して儲ける人、デマを流す人、デマに踊らされる人、色々な人間の心が見えたことと思います。
このような時にいつも思い出されるのが「平和な時に戦争の時ことを忘れず、戦争の時に平和な時の事を忘れない」という言葉です。平和時に平和ボケしている(危機管理が出来てない)と、やがて戦争が起こるであろうし、戦時中に略奪など勝手な事をしていると、平和になった時、その人は裁かれることになるでしょう。今、世間はコロナウイルスの影響でやや混乱していますが、大事なことは混乱に踊らされず、コロナウイルスの影響がなくなった時の事を考える事でしょう。学校が休校になった事で、日本人の子供の学力が下がる事を懸念します。会社が休みになることで、企業の開発力や競争力が低下する事を懸念します。
ニュートンは17世紀、ロンドンがペストの流行で混乱している時に、ロンドンからの疎開先で、微積分学や万有引力の法則についての研究を進め、その成果を後にプリンキピアという著作にまとめました。この彼の仕事から、天体の運動(当時は神の領域)と地上の運動(人間の領域)が同じ原理で理解される力学が完成し、人間が扱える世界が広がりました。やがてそれが産業革命を生む原動力となり、近代が作られていくことにつながりました。
皆さんは、混乱の時、あるいは逆境の時でも、人としての喜びを見出し、生きて行く力を身につけることができたでしょうか。もし在学中にそのようなものを身につけることができたら幸いです。そうでない人は、これからそのようなものを身につける事を目標にしてもいいでしょう。
さあ、明日からは社会人として、そうでない人も次の世界に向かって飛び立ちましょう。皆さん、ご卒業、おめでとう。